【2018年最もロマンティックな音楽、BEHEMOTHの新作”I Loved You At Your Darkest”】

アイ・ラヴド・ユー・アット・ユア・ダーケスト【日本盤限定ボーナス・トラック収録】

猛烈に暑かった夏から秋へ。晴れ渡った日々から夜が長い、寒い日々へと移る頃。

YouTubeを開くと、オススメの中に興味深い映像があった。

10月に発売となった、ポーランドのバンド、BEHEMOTHの新作に伴う映像。

ミュージックビデオでもなければ、今流行りのリリックビデオでもない。

暗い部屋に一人の、無機質な表情をした男が椅子に腰かけ、CDの音源をバックにギターを爪弾く映像。

 

「なんてロマンティックなメロディーなんだ」

僕は深い感動を覚え、その日以来、何度も映像を観ては財布と相談し、この作品を手に入れる機会を狙っていた。

まだ暫く先かと思っていたが、その日は思いの外、早く訪れた。

 

10月31日ハロウィンの夜。

渋谷へあるバンドの新譜を買いに行ったのだが、皆さんご存知のお祭り惨事。とにかく歩けず、ろくに買い物すらできない。現場はニュース以上の地獄絵図であった。

何とかレコード店に到着した時には何とも言えない感情でいっぱいになり、気づいたら当初の予定の新譜に加え2枚も、買っていた。

そのうちの1枚がこれ。その日から通勤中、移動中はずっと、この作品を聴いている。

まずは皆さんにもその映像を観てほしい。


BEHEMOTH – Bartzabel playthrough (EXCLUSIVE TRAILER)

深い、深い音が連なり、不穏なメロディーとなり、どこまでも伸び上り、その上を怒りに満ち溢れた力強い声が何かを訴える…

灰色の分厚く、どこまでも広がる曇が世界を覆う。土も灰色、建物も灰色、葉っぱが散り落ちた木も灰色。

そんな世界の大空を、谷底を、海の上を雄大に飛び抜けるハゲタカ。

僕には、そんな世界が見えてきた。

そして、BEHEMOTHというバンドを率いるこの男、ヴォーカル兼ギターのネルガルというステージネームを持つ男のロマンをこのメロディーに感じた。

冒頭に呪われたかのような絵画を紹介しているが、これがレコードのジャケット。実に恐ろしい。

不気味で近づきたくないかもしれない。しかしどことなく美しい、宗教画のようなグルーヴを持つ絵。

先ほどの映像で僕と同じく、メロディーに惹かれた人は、もう一歩踏み出し、プロモーションビデオを観てほしい。

映画のような世界。丹精に作り込まれた、映像を。

分かり易く言うなら、世界的に大ヒットしたファンタジー映画“ロード・オブ・ザ・リング”で描かれる、闇の世界。

あのような世界を音楽で描いたらどうなるのか、といった感じ。

ただし、なかなかショッキングな映像にはなっているので、あまりバンドのこと知らない人は、映像を観ず、音だけに集中してもらってもよい。

プロモーションビデオは、その音楽の世界を再現したもの故、アーティストの表現を視覚的に知る・楽しむものだが、メタルの世界、ブラックメタルの存在を知らない人にとっては、かなり強烈に映るので、まずは音を。

音だけでも恐ろしさはあるものの、奥深さや芸術性、抒情的なメロディーを感じてもらえるはず。


Behemoth – Bartzabel (Official Video)

こちらは先ほどのネルガルがギター一本弾き通した映像の、プロモーション映像。


Behemoth – God=Dog (Clean Version)


Behemoth – Wolves ov Siberia (Official Video)

過激で邪悪ではあるが、どこか芸術的で美しさが光る音楽。

暴力的ではなく、深い精神性を描いたような音楽。

 

さて、音を聴いて少しでも良いなと思ってくれた方は、ぜひ引き続き読んでほしい。

レコード全体の感触、いかにこの作品が美しいかを、僕なりの視点でお伝えする。

 

このレコードは、なんと子供たちの聖歌隊で幕を開ける。

子供とは言え、可愛げはない。むしろ、純粋な心を悪魔が全て支配したかのような声。

子供とは真っ直ぐな生き物だが、邪心が棲みついた少年が歌い始めると、無機質で強い意志を持ったクワイアとなり、恐怖がじわりじわりとやってくる。

そこに不穏で重いギターが入り、オーケストラが入り、邪悪な世界へと聴く者を誘う。

続く2曲目は、過激なメタルバンドやこのバンドが属するブラックメタルというジャンルによく聴かれるブラストビートが襲ってくる。

ブラストビートとは、簡単に言うと、超人的な速さで2つのバスドラム(ドラムキットの足元にある大きな太鼓)を両足で連打すること。

ドラムキットの中で最も重い音が強烈なスピードで迫ってくる様はまさに恐怖の突風。

そこに邪悪で野太い、死神のような声が入り、ギターメロディーにはオーケストラが重なり、恐怖の世界を築いていく。

1~2曲で十分に荘厳かつ恐ろしいものを聴かせてくれるが、BEHEMOTHの真骨頂はまだまだここから。

このレコードは、邪心に満ち溢れているが、ロマン溢れる深い世界を見せてくれるから。

ドラムスは先述のブラストビートやスローパートを織り交ぜ演奏するが、極地にある音が巧くブレンドされており、レコード通じて綺麗な一つの流れを感じる。

何と言っても一音一音が非常に柔らかい。生肉をスティックで叩くような音という具合。

ステージネーム、インフェルノというこのドラマー、表現者として一級。

ギターソロは、へヴィメタルらしく弾きまくるパートもあるが、ロングトーンを聴かせるものもあり、どちらも共通して感情の乗り方が見事。

いわゆる激しいメタルのソロパートではなく、ブルーズを感じるクラシックロックなものに仕上がっている。緩急バランスが取れた悲哀のメロディーと言おうか。

この手のバンドとしては意外、曲にフィットしつつ、しっくりくる味わい深いギターになっている。

ギターと言えば、4曲目や9曲目では、不気味に響き渡るアコースティックギターが聴ける。

これがいい絵を見せてくれる。枯渇した世界のよう。

葉っぱは枯れ落ち、裸になった木々。霧が立ち込める空気。灰色が支配する世界には、人間の息なんて感じない。

全体的にベースの音がなかなか拾い難いのだが、ここぞというポイントでゴリッという質感の低音が耳に響き、非常に良いアクセントを出している。

ギター・ベース・ドラムスのベースの楽曲のロックさに加え、オーケストラが入るのだが、これがまた奇をてらって「ドヤ顔」感で入るのではなく、自然な流れで入っていく。

そっと寄り添うように、オーケストラサウンドが入っていく。

以上、各楽器の音を紹介したが、いい意味でどれも主張具合が強くなく、心に響くトーンになっている。

ミックスが巧いのか、非常に耳に優しい音になっており、この手のバンドには非常に珍しく、何時間聴いていても疲れない。

こうして、へヴィメタル、またその中でもかなり過激で恐ろしいタイプの音楽というフォーマットではあるものの、優しく温かい質感を感じる音、悲哀に満ちたメロディーで創造される世界観は、ロックそのもの。

少しクラシック音楽に近いかもしれない。クラシックにもただ明るい、美しい音楽ではなく、地獄のような感情をメロディーで表現したものもある。

BEHEMOTHのこのレコードはそんな知的、美的センスを感じる恐怖感は、その後者に属するのでは?

そのクラシックのダークサイドに乗る声は、決してブラックメタルによくあるハイトーンではなく、邪心に満ち溢れた声ではあるものの、けっこう野太い声。深く味わい深い声だ。

なんだろう、腹の底から沸き上がる声には、その歌い手の本気さを感じる。メッセージを世に放ちたいという、底力と言おうか。

ネルガルが歌うのは、アンチ・キリストの精神。キリスト教の教えにおける矛盾を突く。

我々東洋人からすると読み取り難い歌詞ではあるが、ブックレットの日本語訳を読むと、その言葉の世界を感じて、ゾッとする。

しかしどうだろう。西洋人の多くが信じるキリスト教の盲点を突き、人々に気づかせようとするネルガル…彼は、本当は救世主なのではないか?

僕の深読みかもしれないが、

「問題だらけのキリスト教なんか信じるな、こんなものなくてもいい人生を歩めるぞ」

と説いているのか。

そういうメッセージを伝えたい力が、表面的なものではなく、心の底から望むものなのだから、ハイトーンではない、ロック色の強い歌声に感じる気がしてきた。

ネルガルの声の真相…きっと今、ネルガルはいい精神状態にあるんだと思う。

これは僕の勝手な空想だが、なぜそう思うのか、彼の歩みをここで知ってほしい。

背景を知るときっと、もっともっとこのレコードを深く味わえる。

1991年。民主化されてまだ2年しか経っていないポーランド。

14歳のネルガル少年は、テープトレーディングで手にしたブラック・メタルバンドたちの音に魅せられ、BEHEMOTHというバンドを結成。

デモテープの制作を繰り返し、95年に1stアルバムをリリース。

以降、メンバーチェンジはあったものの、コンスタントに作品をリリースし続け、ダークサイド側のベテランメタルバンドとの欧州ツアー、アメリカ進出を成功させ、アンダーグラウンド的な音楽にも関わらず、その芸術性や話題性により、アンダーグラウンドにとどまらず、世界的な成功を手にする。

ただ、その彼の考えや表現する世界がなかなか過酷なもので、強烈な作品の為、日本では考えられないような裁判沙汰に発展している。

結果的にネルガルは勝訴するのだが、さすが欧州。キリスト教の根付き方、信じる力が強い。

また彼らのライヴを阻止しようと宗教団体がライヴ会場に押し寄せ、ツアーが中止になる騒ぎもあった。

あれは、”The Satanist”という強烈なアルバムタイトルのリリースツアー。ロシアでの出来事だった。

バンドは警察に連行され、留置所に入れられ、帰国を余儀なくされた。

しかしこういった騒ぎは一方でBEHEMOTHの名前を世界に広めることとなり、

「どんな世界観を持つ音なのか?」

と興味を持つ、僕みたいな音楽ファンも出てくる。

この記事を読めば、よく理解してもらえると思う。

hbol.jp
またBEHEMOTHを語る上で大事なことがもう一つ。

リーダーのネルガルは、8年前、白血病と闘っていた。

欧州でも北米でも売れ始め、バンドとして成熟を見せつつある頃、彼は病魔と闘っていたのである。

www.barks.jp

彼は見事病に打ち勝ち、その後は充実した傑作を連発する。

アンダーグランドでしか語られないような過激な音楽は、どんどん芸術性を磨いていき、このような大傑作アート作品を産み出している。

先にも書いたが、クラシックとも感じられる。

このレコードを聴いてもらって、また、キリスト教団体との対立や訴訟勝訴、白血病との戦いに勝ったことなど知り感じるのは、ネルガルの精神の強さ、尋常ではない逞しさ。

その男が仲間と創造し、歌う音楽、これほどにまで魂の宿った精神世界。

これは男のロマン。

ネルガルの渾身の想いが詰まったロマンティックな音楽を、深く深く、味わっていこう。

 

参考

BEHEMOTH/Nergalインタビュー!|HMV&BOOKS onlineニュース

Behemoth – Biography | Artist | Culture.pl

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この記事を書いた人
音楽ライター「監督」

音楽ライター。昭和の末に生まれ、平成の大阪で育ち、革ジャンを羽織り、ロックシャツを着て、ベルボトムに下駄で東京の街を闊歩する。「音楽は耳で観る映画」をテーマに、音楽から感じるイメージを文章にし、ライヴレポートやライナーを書いています。

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